あしたのジョー心理学概論～矢吹　丈　その心の病～　PART24 | 三重県でアルコール依存症をはじめとした悩み相談を受け付けております

燃焼する覇気のない面（ツラ）

 

ジョーが、ホセ・メンドーサが敬遠していたカーロス・リベラを

徹底的に痛めつけたという思い込みが、

唯一の心理的優位であったジョーにとって、白木葉子から

伝えられた新事実（以下　文）

”カーロス・リベラをパンチ・ドランカーにより廃人にしたのは、

　　矢吹　丈ではなく、ホセ・メンドーサであったという事実。”

これは、その心理的優位を覆すものであった。

 

この心理的優位をもたらしたのは、ホセ戦後のロバートの談話が原因である。

”カーロスは、丈　矢吹　によってスクラップにされてしまった”

この一言を、鵜呑みにした結果、生まれた心理的優位である。

 

しかし、葉子から伝えられた新事実は、パンチ・ドランカー症状の権威でもある

Dr.キニスキー博士が見たレントゲン写真で裏付けられた。

 

”レントゲン写真でのテンプル部分の大きな亀裂は、

直線的なパンチでは決して生じない亀裂であること、

その亀裂を生じさせるのは、

パンチを打ち込む際に手首を捻る高等テクニックである「コークスクリュー・パンチ」

でしか生じないこと。

また、矢吹VSカーロス戦を何度見直しても、ジョーはカーロスに対し

テンプルはおろか、コークスクリューなるパンチは一本も出していないこと。

それに対して、カーロスをKOしたホセの一撃はテンプルに打ち込んだ

コークスクリュー・パンチであったことを明かす。”

 

 

ジョーは、ホセの勝利をカーロスの故障というホセにとっての

「外的変動」に帰属することにより、

ホセの実力を評価せず、ジョー自身の能力（内的安定）のお陰であると

考えていたのだが、新事実によりこれが覆り、

ホセの勝利がホセ自身の実力（内的安定）に帰属されたため、

当然、カーロスと引き分けたジョーの実力評価はホセよりも下となった。

 

しかし、新事実は、勝敗に拘ることのないジョーの

「内生的」な行動原理を覆すまでには至らなかった。

 

世界バンタム級チャンピオン、ホセ・メンドーサ（メキシコ）

との対戦日は既に決まっている。

 

ここで、以前のジョーであれば、勝つ可能性を見いだすために

特訓や努力をする必要があった。

しかし、

今のジョーにはその必要はなかった。

既に強固な意志が出来上がっていたからである。

この強固な意志は「ホセと戦うため」にリングに上がるという意志である。

「勝つためでもなく、負けるためでもない」

ただ、戦うために無心になって挑むのである。

 

”人が本当に動機づけられているときには、意識的に努力をするのではなく

寧ろ、この時のジョーのように意志的な努力はしない状態になる”

 

戦いに動機づけられた者が、それに専念する時、

その戦いを動機づけているものは、戦いそのものの喜びだけである。

 

「上手く戦ってやろう」などと邪念を持つような場合は、

まだ、真に動機づけられているとは言えない。

 

「な・・・なんて覇気のねえ面をしてやがるんだ・・・」

「リング上でこんなジョーの顔を見るのははじめてだ・・・」

と、段平に言わせるほど、戦いに専念する無心の姿こそ、

肉体的限界と本人のヤル気が互いに頂点に達した姿なのである。

 

試合中にジョーは紀子との会話を回想しながら、

自らの行動の原因の「内的で内生的な帰属」を強化する。

 

 

”真っ白な灰になるまでやらせてくれ”

 

 

と、これまで頼りにしていた段平の制止を振り切り、

自分の内なる充実感だけを目的に１５ラウンドを戦い抜いた。

 

最も人間らしい純粋な姿で、人間的な動機に従い、行動するジョー。

 

凶暴で残忍、非情と呼ばれたジョーが、

死闘の世界でみせた人間的な論理・動機・行動。

 

ホセとの試合前、控室で白木葉子が現れ新事実とジョーへの想いを伝える。

しかし、ジョーは、

”「リングには、世界一の男が俺を待ってる・・・

　　　　　　　　　　　だから、行かなきゃ・・ありがとう」”

 

葉子の告白に対する「内的」な受容を決して否定していない。

 

ホセとの試合前、控室で白木葉子を振り切り、リングに向かったジョー。

 

 

次回は「段平のコーチングは成功したのか」を主題に掘り下げて行きます。

より、専門用語が出てくるかと思いますが解説も含めて行きますので

よろしくお願いします。

 

 

心を和らげる相談室　HEART 　　　代表　　杉野　茂広