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あしたのジョー心理学概論~矢吹 丈 その心の病~ PART7

2021年12月14日

「父親殺し」の罪を背負った韓国人ボクサー金龍飛との戦い

 

「氷の男」・「戦うコンピュータ」と呼ばれる韓国人、

金 龍飛(東洋太平洋バンタム級チャンピオン)は、

逃れらようのない罪を背負ったボクサーである。

 

朝鮮戦争の真っ只中、まだ少年であった金は、空腹のあまり、

食料を手に入れる為、殺人を犯した。

 

その直後、殺した相手が自分の父親であったことを知って以来、

金の身体は最小限の食べ物しか受け付けなくなる。

これは、父親殺しの「トラウマ」と言う身体症状として現れている。

 

 

レストランでのジョーとの会話では戦場の悲劇を見てきたが故にこう語る。

 

「ボクシングの世界のハングリー精神や減量などと言うものは

                甘っちょろい戯言に過ぎない。

私にとって、ボクシングなどママゴトだよ。・・・・

ボクシングは、じつにのどかな平和な世界なんだよ。 私にとっては・・・。

 減量に失敗するボクサーなどただの胃袋を広げた奴の贅沢さ、

例えば、今朝、私はビスケットを3枚と今飲んでいる紅茶しか口にしていない、

明日の朝のビスケット3枚までは何も口にしなくてもいいのだよ」


この救いようのない皮肉な循環構造は、神経症のメカニズムを思い起させる。

この神経症の中にPTSDも含まれる。

 

 

相手に与える精神的ダメージ

 

その生い立ちを試合前に金から聞いたジョーは、

直観的に自分は勝てないと思ってしまう。

対戦相手として引き受けるには相手の「傷」が大きすぎるのである。

そうなると、深層心理に「それ」が刻み込まれてしまった状態で

「絶対、勝てない」とまで思い込んでしまうのである。

 

ジョー自身も「傷」を背負っているが、

それを超える「傷をもった男が対戦相手」と言うことを知って

「俺の想像を遥かに超える修羅場を通ってきた男」と言う意味で

「勝てる気がしない」のである。

 

金は、心理カウンセラー的に言うならば、極めて心を開ける事が難しい相手でもある。

Drでも治療困難な程度と言えよう。

 

それが原因で、対金線はジョーの戦いの歴史の中でも最大級の苦戦になった。

 

先程述べた様に「金の罪悪感」、すなわちその「傷」の巨大さに吞まれたジョーは、

試合前の控室でも段平に「どうにも勝てっこない」と本音を漏らしている。

 

試合でも、減量の影響も手伝い、手が出ずひたすらダメージを負っている。

 

心理的観点からは、ジョーは幼い頃から「傷」を負い続けてきた訳だが、

この程度の「傷」では、金の「傷」に比べて浅すぎると感じてしまっているのだろう。

 

心理療法の過程において患者の怒りや悲しみ等の感情の”うごめき”を

カウンセラーが受け損なうと、

患者は、その苦しみを理解させようと無意識的に非常に巧妙な方法で

カウンセラーに自分と同じ苦しみを体験させようとしてくる。

 

金が試合で手を緩めないのは、このような患者のパターンと同型のものと思われる。

 

 

 

ジョーの傷「力石の死」が、金の傷に呼応することで試合に勝利

 

想像ではあるが、

今までの金の対戦者は、金の「傷」を受けきれずに敗れて行ったのではないだろうか? 

「氷の男」・「戦うコンピュータ」は、

金のことを何も分かっていない者が付けた異名に過ぎない。

 

金の本当の気持ちは理解されないまま、罪悪感だけが残り解消されず、

金は癒されないまま取り残された状態であったと思われる。

 

試合中も何度倒しても、立ち上がってくるジョーに対して金自身も

今まで体験した事のないボクサーと認め始め、

一方のジョーも「何で? 何で立ち上がるのか理解出来ていない」

このような状態が続き臨界点が訪れる。

 

その臨界点の発端は、タオルを投げない段平に対し「白木 葉子」が、

セコンドの義務として投げるべき!無理な減量をして死んだ力石君を忘れたの!」

と言うが、この言葉がジョーに火を点ける事になる。

 

実際、葉子は「うるせー」とジョーに水をぶっかけられた。

 

葉子のお陰でジョーの中で「力石の死」がイメージとして呼び起こされたのだ。

 

「力石の死」は金の「父親殺し」に相応するジョーの「傷」である。

ここで、ジョーの中で、

金の持つ「傷」とジョーの持つ「傷」が同等となったのである。

 

第6ラウンドでジョーは頭から血を流す。

その流血を見た金は「父親殺し」の場面をフラッシュバックさせてしまい。

結局、金はジョーのパンチを受けリング外へ落ちて、そのまま。

ジョーの勝利である。

 

対金戦は、両者の罪悪感同士の戦いに見えるが罪悪感の共感のドラマであると考える。

 

今回も長くなってすみません。

 

 

 

心を和らげる相談室 HEART        代表  杉野 茂広

 

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